太陽系の中心にある、まぶしい光の主――それが太陽。今回は、いちばん身近にある星、太陽についてのお話です。そんな素朴な疑問から始まった、夜の小さな会話たち。糸島の海辺にひっそりと開くバーに、宇宙にくわしい天の川教授がやってきました。子どもたちのまっすぐな質問に、やさしく、ときに熱く答えてくれる物語です。星を見上げながら、「宇宙ってなんだろう?」を一緒に考えてみませんか…

第2話 いちばん近い星―太陽の話

糸島の海辺の夜。空は雲ひとつなく晴れて、星たちがやさしく光っていた。その小さなバーに、レンくんとひかりちゃんのきょうだいがやってきた。早速、レンくんがふとカウンターに目をやりながら、つぶやくように天の川さんにたずねた。

レンくん 01
レンくん

ねえ、天の川さん。太陽って星じゃないんだよね?

天の川教授 01
天の川教授

それはね、宇宙へのとびらを開く、とってもいい質問だよ。

天の川さんは、手にしたグラスをそっとカウンターに置いて言った。

そう言うと、天の川さんはいつものようにまっすぐにレンくんの目を見つめ語り始めた。太陽って、あまりに身近すぎて、なんとなく“特別な存在”に感じるかもしれない。でもね、実は太陽は――“星”なんだ。しかも、地球にいちばん近い星なんだよ。夜空にきらめく星たちと、種類としては同じ、“恒星”という仲間なんだ。恒星は、自分で光や熱を出す天体。夜に見える星たちも、みんな遠く離れた場所にある恒星たち。太陽もそのひとつで、ただ地球のすぐ近くにあるから、とてつもなく明るく、そして大きく見えているんだ。

たとえば、“金星”は地球にとても近い惑星だ。でも、あれは“惑星”。太陽の光を鏡のように反射して光っているだけなんだ。だから、地球にいちばん近い“惑星”は金星だけど、地球にいちばん近い星(=恒星)は、間違いなく太陽なんだよ。

いちばん近い星太陽のはなし

太陽内部で核融合が起きている

太陽の中では、“核融合”という特別な反応が起きている。かるい水素が重なってヘリウムに変わるとき、ものすごいエネルギーが生まれて、それが光と熱となって宇宙へと放たれる。太陽の中心は、およそ1,500万度――カレー100億皿が一気にあたたまるくらいの熱ささ。

その光と熱が地球に届いて、植物は育ち、動物は活動し、わたしたち人間も生きていける。太陽がなければ、地球は真っ暗で凍りついた世界になってしまう。しかも太陽は、ただ明るく照らしてくれているだけじゃない。地球のまわりを安定して動かす、重力の柱でもある。太陽が宇宙のなかでどっしりと構えてくれているから、四季が生まれ、朝と夜がめぐり、わたしたちの暮らしが守られているんだ。

――ね、すごいでしょう。太陽って、みんなを生かしてくれる、やさしくて力強いヒーローなんだ。

太陽は生命活動を支える重要な天体

レンくん 01
レンくん

じゃあ、夜に星が見えるのは、太陽がないから……?

少し黙っていたレンくんが、小さく首をかしげた。

天の川教授 01
天の川教授

うん、それが自然な感覚だよね。

天の川さんはうなずいた。

その通り。太陽の光が空を明るく照らしてしまうから、昼間は星が見えない。でもね、太陽が沈んで夜になると、遠くの星の光が見えてくる。つまり、夜の星たちの輝きも、太陽がくれた“余白の時間”なんだよ。

太陽があって、夜の星が生きてくる。目立たないけど、大切な役割だね。

あゆむ 01
あゆむ

……まるで、誰かの人生を照らしながら、そっと後ろに立ってる、そんな存在みたいですね。

その言葉に、マスターのあゆむがカウンター越しにそっと微笑みながら言った。

天の川教授 01
天の川教授

うん。

天の川さんは、ゆっくりとうなずいて、カウンターの奥を見つめた。

太陽があるからこそ、夜の星たちも、あの美しい輝きを見せてくれる。たとえ夜空に太陽の姿がなくても、その光があったからこそ、星たちは光を届けてくれるんだ。私たちの毎日は、いつだって太陽のやさしさに包まれているんだね。

――さあ、次は空にぽっかり浮かぶもうひとつの身近な天体、月のお話をしてみようか。

太陽いちばん近い星のはなし

糸島の観測スポット:鎮懐石八幡宮(ちんかいせき はちまんぐう)

福岡県糸島市の西海岸に佇む「鎮懐石八幡宮」は、夕日と星空を静かに楽しめる特別な場所。海を見下ろす高台にあり、目の前には玄界灘の水平線が広がります。特に夕暮れどきの“マジックアワー”には、空と海が溶け合うように染まり、息をのむほど幻想的な景色が広がります。日が沈んだあとは、静けさの中に星々が一つずつ顔を出し、街の明かりの届かない澄んだ空に輝きを放ちます。宇宙の入口に立つような感覚を味わえる、糸島屈指の観測スポットです。