福岡市から糸島市へ引っ越して、まず驚いたのは――夜空の美しさでした。街の灯りが遠ざかるぶん、星の瞬きがいっそう近く感じられるこの場所で、空を見上げる時間が少しずつ増えていきました。そうしてふと気づいたのです。この空の下には、きっと“宇宙の入口”がある。

それは数字や理論じゃなく、ただ「わぁ……」と見とれてしまう、あの一瞬のこと。

宇宙の不思議を子どもと楽しむ物語

そんな素朴な疑問から始まった、夜の小さな会話たち。糸島の海辺にひっそりと開くバーに、宇宙にくわしい天の川教授がやってきました。子どもたちのまっすぐな質問に、やさしく、時に熱く答えてくれる物語です。星を見上げながら、「宇宙ってなんだろう?」を一緒に考えてみませんか…

第1話 宇宙はどこから始まるの?

糸島の海辺の夜。空は雲ひとつなく晴れて、星たちがやさしく光っていた。その小さなバーに、レンくんとひかりちゃんのきょうだいがやってきた。

レンくん 01
レンくん

天の川さん、ぼく、聞きたいことがあるんだ!

宇宙って、どこから始まってるの?

天の川教授 01
天の川教授

いい質問だね。

天の川さんはうれしそうにうなずくと、グラスの水をひと口飲んで、話しはじめた。

じゃあ、宇宙がどこから始まったか――ちょっと本気で話してみようか… まず、“宇宙のはじまり”と聞いて、思い浮かぶのは『ビッグバン』という言葉かもしれないね… ビッグバンというのは、約138億年前、すべての空間・時間・物質・エネルギーが、ひとつの点に集まっていた状態から、急激にふくらみはじめた出来事のことなんだ。これは爆発というより、ものすごい勢いで広がりはじめた。というほうが正確かな。

このふくらみが、今も続いている。つまり――宇宙は今も生まれ続けている途中なんだよ。

じゃあ、どこから始まったの?という質問に科学で答えると、場所ではなく状態から始まった。というのが正しい。そして、宇宙の入口がどこかと聞かれたら、ぼくはこう思う。それは、星を見上げて『わぁ……』と感じた、心の中にあると思うんだ。

宇宙はどこから始まるの?
ひかりちゃん 01
ひかりちゃん

じゃあ、今でも・・

宇宙のはじまりは見えるの?

天の川教授

うん、

実はね、ぼくらは**宇宙の昔の姿を空に見ることができる**んだ。例えば、夜空に見える星たちの光――あれは、何万年も前に出発した光が、ようやく地球に届いてる。つまり、あの星の“昔の姿”を見てるってことになる。さらに、もっともっと遠くを見ると、そこには「宇宙マイクロ波背景放射」という、ビッグバンのかすかな名残が空全体に広がってるんだ。これは、いわば「宇宙の赤ちゃんの声」みたいなものさ。

つまり、夜空を見上げるとき、ぼくらは過去をのぞいている。それも、ものすごく遠い昔の記憶をね。

しんのすけ 01
しんのすけ

にゃあ…

ぼくは、お昼にたべた「ちゅ~るごはん」しか思い出せないけど…

天の川教授

でも、それでいいんだよ。

宇宙って、誰かと話したり、空を見上げたり、心が少しだけ広がったりしたときに、そっとその入口が開くんだと思うんです。それは目に見える扉じゃないけれど、たしかにそこにあって、気づいた人だけがそっと触れられる場所。

宇宙は、どこか遠くにあるんじゃない。ぼくらのすぐそばにある。目の前の空にも心の中にもね…

宇宙の不思議を子どもと楽しむ物語

糸島の観測スポット:芥屋の大門 展望エリア

海の向こうに広がる真っ暗な空。西の空が大きく開け、星たちがくっきりと瞬くこの場所は、夜になると静寂に包まれ、波の音だけが耳に届きます。ここに立つと、空と海の境界が少しずつ溶けていき、まるで自分が宇宙の中に浮かんでいるような気さえしてきます。星を見上げるというより、宇宙に包まれる。―そんな感覚に出会える、糸島のとっておきの観測スポットです。